日本職業教育学会 第5回大会 自由研究発表(概要一覧)

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発表者 所属 テーマ(上段)と概要(下段)
田中 萬年 (元職業能力開発総合大学校) 用語「職業訓練」の転生と課題-概念と目的の変容-
1958年に公布された「職業訓練法」以前は公共では「職業補導」が、事業所では「技能者養成」が使用されており、「職業訓練」は同法制定以降に普及したと言える。ただ、「職業訓練」の用語が突然に法令に利用されたとは思われない。また、GHQ職員は”Vocational Training”を用いたはずである。そこで、当時行政機関等で利用されていた用語の状況を整理し、これらの「職業訓練」の差異の課題を明示する。
倉田研一 立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究所 戦前における美容師養成についてー美髪学校(美容学校)は何をめざしたのかー
大正初期に美髪学校(美容学校)は各種学校として最初に設立され全国に広がっていったと考えられるが、その十分な記録は公立として設立された学校以外、現在東京都公文書館に残された16校にあるのみである。これらの設立認可届及び関連する新聞・雑誌記事等の情報を分析し設立の経緯と動機を明らかにする事を目的する。
山下尚子 北海道大学理学院 実務で求められる帰納推論能力に関する高校生向け研修の効果検証
現在多くの企業が入社試験に課題解決能力の指標である構造的把握力テストを取り入れている。テストは複数の異なる内容の文章を比較して、その中から共通した構造のものを選ぶ形式となっている。このように複数の事象から共通性を見出し法則化する思考を帰納推論という。本研究では未だ確立されていないこの能力の育成研修を高校生に実践し、類似テストやインタビュー調査によって研修の効果や課題・展望について明らかにしたい。
山田寛之 立教大学 イギリスの高等教育における「こども学」の分野別参照基準の検討:「こども学」の知識に関する3類型論の視点から
各大学の高等教育の内部質保証の参照基準の1つである「分野別参照基準」について「こども学」を事例に検討する。まず、過去4度の改定の特徴、2022年の最新版の概要、こどもに関する大卒程度実践者のコンピテンシーの特徴を整理する。そして、Hordern (2018)の「こども学」の知識に関する3類型論(学術的知識、専門職知識、汎用的知識)の視点から「こども学」の分野別参照基準の意義と課題を検討する。
鹿田 星 学校法人大和学園 京都製菓製パン技術専門学校 AIアプリ学習による個別最適化と効果検証
コロナ禍以降、デジタルツールの需要が増し、人工知能(AI)の発達もその流れを後押ししている。本研究では学習の個別最適化を目的に、AI問題演習アプリを用い、製菓衛生師国家試験の対策学習を実施した。その結果、AIアプリ学習後に有意な得点上昇が見られ、学習回数と得点上昇との相関も見られた。また、個別最適化による学習者の意欲向上が見られた。本結果より、個別最適化学習におけるAI活用の可能性が示唆された。
長谷川晴通 元国鉄職員 国鉄における技能連携について
国鉄の工場では車両の修繕や新製を行う技能者を養成するため工業高校相当のレベルで一般科目や電気・機械関係科目の座学・実習を行っていたが、養成所を修了しても高卒資格は与えられなかった。そのため卒業生が高卒資格を得るには高校に入学して既に学んだ科目を再履修する必要があり、この重い負担を解消したのが技能連携制度である。
今回はこの制度が国鉄の若者たちに与えた恩恵などについて紹介をさせていただきたい。
上原芙美乃 千葉大学大学院教育学研究科 TVEからTVETへの移行期におけるUNESCO-UNEVOC国際センターの動向
本発表は、ユネスコが用いるTVEがTVETへと移行した期間における、UNESCO-UNEVOC国際センターの活動の動向を検証する。国際センターは、ユネスコ加盟国やILOといった労働行政機関、各国のTVET機関と協働しながら、TVETを国際社会へ押し進めてきた。本発表は、国際センターによる施策や実践の内容に留まらず、これに関連した利害関係者との協働も合わせて、活動の動向として検討することを試みる。
段順然 京都府立大学 公共政策研究科 専門職大学研究の枠組みの検討 ―専門職大学の設置状況からみた分類と専門職大学研究の検討課題―
本発表は、専門職大学研究の枠組み構築に向けて、現状の整理と分類を行うものである。まず、専門職大学制度の概要を確認するとともに、各専門職大学の設立目的、設立数や地域分布、学科等の基礎的データを整理する。本発表では設置者および設置形態の違い、特に前身となる学校・課程の有無から専門職大学の独自性について検討する。これら基本的なデータの整理から、専門職大学研究の検討課題を明らかにしたい。
児玉美由紀 名古屋経営短期大学 航空業界におけるキャリア開発 -国際線客室乗務員の事例-
本稿は、専門職としてのキャリア開発を探求する為に航空業界における国際線客室乗務員の事例を取り上げる。先ずは、客室乗務員として求められる人材像、専門職としてどのように教育・訓練を受け、乗務経験を通じてどのようにキャリアを形成するのかをホスピタリティの観点から紹介する。続いて、客室乗務員が乗務で培った知見を活かし他部門の業務に挑戦する制度が導入されており、自律的にキャリアを築いている事を明らかにする。
片山 勝己 マツダ(株)勤務  放送大学学生 アクティーブ・ラーニング(学修者能動的学修)型「企業内学校」について ~銀座ジュエリーマキの三貴学校に着目して
近年、アクティーブ・ラーニングが企業内学校でも重視されている。その先進例が1980~90年代の銀座ジュエリーマキの経営母体(株)三貴にあった。同社は意図的に企業内学校を設置していない。しかし、その従業員が同社での日々を「まるで学校のようだった」と感じ、「三貴学校」と呼称しているのである。本発表では三貴学校研究により、企業内教育におけるアクティーブ・ラーニングの重要さについて新たな論考を試みる。
水田 真理 学校法人片柳学園/放送大学大学院 専門学校の設置及び廃止の状況について -専門学校新聞による調査を通じて-
専門学校は他の学校種と異なり、設置及び廃止の多さが特徴となっている。そこで、これらの積み重ねが現在の専門学校の状況を形成しているという仮説を立て、どのような設置主体が、どこに、どういう分野の専門学校を設置しているのか、また逆にどういう学校が廃止されていったのかを明らかにしたい。本報告においては専門学校新聞に掲載されている専修学校の新設及び廃止一覧の年度別データを基に、その概略を提示する。
日高 淳 国際文化理容美容専門学校国分寺校 理容美容専門学校におけるキャリア教育の実践研究 ―必修課目「運営管理」へのNIE導入によるアクティブラーニングの試み―
理容師美容師養成施設におけるキャリア教育に資するNIE(Newspaper in Education)導入の有効性を養成施設指定規則に定められる必修教科課目の1つである「運営管理」において検討し、新聞記事を教材化したアクティブラーニングの実践研究を報告する。
増田涼太 東京大学大学院教育学研究科(院生) 1950年代後半から60年代前半の池上正道の進路指導実践—生産教育論の受容に着目して
 本発表では1950年代後半から60年代前半の池上正道の進路指導について、生産教育論の受容に着目して論じる。池上は1955年に東京都の職業・家庭科教員となり、技術教育・進路指導に精力的に携わった人物である。ここでは池上による産業教育研究連盟(産教連)を通じた生産教育論の受容を検討するとともに、産教連の理論と異なり職業・家庭科教員として中卒者の進路指導に注力したのはなぜかという問いも考えたい。