日本職業教育学会
会長(2026年1月 会長就任)
界を越える豊かな対話を通して職業教育の学術のコミュニティを育てていきましょう
2026会期の学会運営体制は、事情により時間を要し、変則的な成立となったことで会員のみなさまにもご心配をおかけしました。前々期の会長として坂口前会長へお渡ししたバトンを、こんどは丁寧なご説明とともに再び受け取ることになりました。学会への思いを新たにしております。これから、この学会がより一層魅力あるものになるよう、みなさまと一緒に尽力していきたいと存じます。どうぞよろしくお願いします。
まず、これからみなさまと共有したいこととして、2020年4月からの日本職業教育学会という学会新名称が、学会活動にどのように活かされているのか、また今後どのように学会の飛躍に進んでいくのか、という基本課題の探究に真剣に取りくむことです。2019年10月九州大学での年次総会では、日本産業教育学会60周年の節目にあたりながら、さまざまの議論と会員意向投票を経て。学会名称の変更が承認されました。その場でもさらにいろいろな議論がありましたが、英語名称のコンセプト(Technical and Vocational Education and Training)のほうがすっきり合意されたという点でも、名称変更の大きなレガシーは、ユネスコの2015年の職業教育勧告(正確には技術教育・職業教育・職業訓練の勧告)にあったと思います。
ユネスコの職業教育勧告については、学会誌特別寄稿として吉本圭一(2020)「教育と職業の界をつなぐ学位・資格枠組み-職業教育とその学の未来形-」(『職業教育学研究』第50巻 2号 pp.1-18)の中でも言及していますが、デューイの言うように学術的な教養教育と対比して劣位の評価を受けやすい職業教育を、どのように適切な社会的評価を受けるものにしていくのかという根源的な問いがあります。国際的な政策への勧告として、国を超えてその問いに答えていこうとするものです。とりわけ普通高校から大学というキャリアパスこそが「正系」であるというような規範的認識が生まれやすい日本の教育と社会においては、職業教育を探究する学会もまた同様の困難を抱えています。日本職業教育学会としてのスタートから6年、学会規模の面での飛躍には必ずしも至っていません。日本で職業教育を通して豊かな学びを提供する、そこに関わる学術の研究を進める、というわれわれの新しい学会名称設定の初心に返り、これからの学会活動の充実を図っていくことが、とりわけ大切な課題です。
そこで、少し職業教育学の対象について考えてみたいと思います。第三段階教育を例にとってみると、職業教育を深く探究するセクターは、しばしば「非大学型」という打ち消しだけで積極的な意味を持たない用語で括られて把握されたりします。大学という制度は、長い歴史と世界的な展開の中で実に多様でありながらも、それまでに獲得された「学術の中心」などといった共通感覚で多く語られます。日本に「学術の中心が800もあるはずがない」と看破された碩学もおられますが、多様で曖昧さを残す、しかし中心という語感を伴う「大学」という共通感覚が確かにあります。そして、それを打ち消すだけの「非大学」というコンセプトで括られるさまざまの学校種において、多様な職業教育が展開されています。求心的な概念を内包的に定義することは容易かもしれませんが、離散的な概念は外延的に、いろいろなケースを集めて定義するほかありません。
あらためて、われわれ日本職業教育学会を振り返ると、それぞれの学会員が多様な職業教育を専門的に研究しており、地域的な近隣の研究交流の場としての地区部会と並んで、本学会固有の特徴となりますが、専門研究の交流の場として多くの専門部会が組織されています。学会webサイトには、「エルゴナジー研究会」、「国際部会」、「専修学校部会」、「高校職業教育部会」、「若手研究者部会」、「企業内教育部会」、「キャリア教育部会」の情報が掲載されていますが、職業教育学研究の中で専門的に深めていく領域や、対象、方法論はそれ以上にまだまだあります。われわれの学会の中でも、このように職業教育が離散的に語られているわけです。この現状で職業教育全体を定義しようとするのであれば、外延的にはそうした専門の領域や対象、方法論を数え上げていくことになります。
本学会の会員のみなさまがそれぞれに専門に特化し深く探究しておられることに敬意を表しつつ、いま「職業教育とその学の未来形」を考えるとき、ここで「界=コミュニティを越える」ことの重要さをここで提起したいと考えています。
専門部会等を通して多様な専門の交流を深めれば、その範囲での専門的な職業教育コンセプトを確立につながり、部会内での共有が進みます。そうして部会が確かなコミュニティとして育っていくわけです。それと並行して、さらに一歩踏み込んで、それぞれの専門部会(界=コミュニティ)を越えた対話をすることによって職業教育を探究する学会としての確かなコンセプトが生まれていくのではないかと思います。私自身は、前述の論考などで、職業教育を、学術教育との対比で、「職業の、職業による、職業のための教育」、つまり目的・方法・統制による定義を提起していますが、これもまた1つの仮説になればと思っています。
ともあれ、「界=コミュニティ」を往還することの価値は、教育と職業とをつなぐ、学校と社会をつなぐ教育と学びとしての、われわれ「職業教育」研究の世界でこそ、より適切に把握できるものだと考えます。
これまで積み上げてきた職業教育に関わる、専門の領域、専門の研究対象、専門の研究方法論をさらに探究しながら、職業教育の学という観点から再考し、それぞれが主たる専門分野の「界=コミュニティ」を越えることで、職業教育という普遍的で共有される価値(コモン)を展望する対話(コミュニケーション)が促されます。みなさまと一緒に職業教育への思いを深め、職業教育研究という界(コミュニティ)を育てていきましょう。そして、よりよい職業教育研究の界を形成するために、それぞれの界を育て、界をこえる対話の場(アゴラ)を造り、さらにその外にあるさまざまの界との対話を活発に行われるようにしていきたいと考えます。これから、どうぞよろしくお願いします。
| 学会名称 | 日本職業教育学会(Japan Society for the Study of Technical and Vocational Education and Training) |
| 会長 | 吉本 圭一(東京情報デザイン専門職大学客員教授) |
| 設立 | 1960年10月1日 |
| 住所 | 〒116-0011 東京都荒川区西尾久7-12-16 株式会社ソウブン・ドットコム内 |
| 研究内容 | 学校、社会ならびに産業における技術・職業に関する教育・訓練の諸問題に関する研究 |
会則はこちらから
| 役職 | 氏名 | 所属団体 | 役職詳細 |
| 会長 | 吉本 圭一 | 東京情報デザイン専門職大学 | 客員教授 |
| 副会長 | 佐野 正彦 | 大阪電気通信大学 |
| 事務局長 | 深江 裕忠 | 職業能力開発総合大学校 |
| 理事 | 阿部 英之助 | 大東文化大学 | |
| 猪股 歳之 | 東北大学 | ||
| 石嶺 ちづる | 愛知教育大学 | ||
| 伊藤 友子 | 熊本学園大学 | 名誉教授 | |
| 上原 慎一 | 北海道大学 | ||
| 江藤 智佐子 | 久留米大学 | ||
| 岡村 慎一 | 学校法人YIC学院 | ||
| 小田 茜 | 久留米大学 | ||
| 片山 勝己 | 社会福祉法人ライフケア高砂 (株)ベルアージュ | ||
| 勝原 修吾 | 東京情報デザイン専門職大学 | ||
| 木下 龍 | 千葉大学 | ||
| 古賀 稔邦 | 情報経営イノベーション専門職大学 | ||
| 斎藤 修啓 | 金城大学 | ||
| 坂本 將暢 | 名古屋大学 | ||
| 瀧本 知加 | 京都府立大学 | ||
| 中村 友基 | 職業能力開発総合大学校 | ||
| 藤田 駿介 | 流通経済大学 | ||
| 柳田 雅明 | 青山学院大学 | ||
| 横尾 恒隆 | 横浜国立大学 | 名誉教授 | |
| 吉岡 いずみ | 大阪観光大学 | ||
| 渡辺 達雄 | 金沢大学 |
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