98年度大会

 

日本産業教育学会第39回大会

1998年9月26日〜28日

於 芦屋大学

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発表要旨

A−1
メカトロニクスに関する教育実践の調査−企業において必要とされる能力と人材の育成−
三田純義・伊澤悟・増淵寿(小山工業高等専門学校)

 企業、工業高校、工業高専、大学(工学系)におけるメカトロニクスに関する教育の実践状況について調査した。その調査結果のうち、企業において、メカトロニクス技術が必要とされる部門と人材の配置、それに対応して技術者に必要とされる能力と人材育成について、学校教育における実践状況と対比して報告する。

A−2
高等学校専門学科の教育目標と就職指導における専門性−愛知県の専門学科設置校に対するアンケート調査結果の事例−
寺田盛紀(名古屋大学)

 高等学校職業教育課程の専門性の様態を進路・就職指導の目標や内容との関連で実証的に検討しようとするものである。両者に関連があるのか?専門学科教育は就職指導からみても「メリトクラシー原理」に貫かれているのか?愛知県の専門学科設置校に対して行った標記アンケート調査結果の事例を報告する。教育目標・生徒像、資格・検定試験の位置づけ、就職実績、企業推薦の基準、企業の評価基準などについて分析を加える。

A−3
高等学校総合学科の進路選択と総合選択科目の履修実態について
大河内信夫(静岡大学)
 平成6年度に発足した高等学校総合学科は、平成10年度には105校にまで増加している。これまで総合学科についての議論・評価は、理念的な観点やカリキュラム上の一部を取り上げているものが多く、3年間の完結した履修実態を論じたものは皆無に等しい。本研究では、公立高等学校の個々の生徒の総合選択科目の履修実態と3年間の進路希望の変化および卒業時の進路とを調査し、そこにある課題を明らかにしようとするものである。

A−4
「総合的学習」の産業教育としての位置づけ
池上正道(帝京短期大学非常勤講師)

 「教育課程審議会」の答申は、小学校3年以上高校まで「総合的な学習」を週2時間程度行うとした。この時間は「教科」ではないとされ、「ものづくりや生産活動などの体験的な学習」も「学習活動」に入っている。これまで「総合学習」として先進的に行われて来た中には「ものづくり」「生産活動」を中心的に位置づけた実践もある。これから展開されるこのような新しい教育課程の中で産業教育が展開される可能性を論じたい。

 

A−5
男女共同参画社会の推進と技術・職業教育
村田昭治(金沢大学教育学部大学院非常勤講師)

 男女共同参画社会が謳われている。教育課程審議会の答申は、高校家庭においてのみこの文言を用いている。女性の地位の向上には技術職業教育の拡充は不可欠であるにも拘わらず、1980年代前半の教育の機会均等問題における討論は家庭科共修問題に限定(矮小化)され勝ちであった。その結果、技術職業の必修化案も不調に終わった。当時の学会シンポジウム、外国の対応について文献から追跡するとともに、男女行動参画社会基本法について考える。

B−1
社会主義市場経済下の中国職業教育の展開−ドイツのデュアルシステムモデル受容を手がかりにして−
陸素菊(名古屋大学大学院)

 本研究は、社会主義市場経済下の中国職業教育システムの特質を、国家全体の改革動向と関連させながら、ドイツのデュアルシステムモデルなど海外の職業教育モデルの導入実験に即して解明することを目的とする。そのために、若干(教育行政側や教育研究者へ)の聞き取り調査、学校・企業の事例調査により、1982年以降のデュアルシステムモデルの実験過程、その成果と問題点、及び中国職業教育に及ぼした影響を実証的に検討する。

B−2
ドイツにおける職業教育訓練のデュアルシステムの危機論争と現在の課題
佐々木英一(追手門学院大学人間学部)

 1990年代初め以来、ドイツではデュアルシステムの危機論が論議を呼んでいる。発表では、労働現場における労働力構成、生産方法の変化、経済活動の動向などから説明される危機論の背景の分析、危機論およびその反論の各論点の整理と分析を行い、ここから、危機論争の背後にある、現在のデュアルシステムがかかえる構造的な問題を摘出することを試みる。

B−3
ロシアにおける初級職業教育について
水谷邦子(芦屋大学)

 市場経済移行が困難をきわめ、社会が混乱状態にあるロシアにおいては職業教育は非常に重要であるとされながらも、全般的には軌道に乗っていない。ここでは、初級職業教育を中心として、筆者がモスクワで訪問した新しいタイプの職業教育を行っている学校を紹介したい。

B−4
青年期のアイデンティティ形成における職業教育の意味
西美江(大阪市立大学大学院)

 近年、米国の職業教育関連法に導入されたAAIは、生徒が入職を希望する産業の、文字通りあらゆる側面について理解と経験を与えることを目的としている。本発表は、このAAI概念とハイスクールにおける実践例を、職業選択を通じたアイデンティティ形成の過程にとっては必須の要素であると考えられる「仕事の文化」の視点から検証し、青年期のアイデンティティ形成において職業教育が担うべき役割について考察するものである。

B−5
産業教育振興法成立過程における総合計画の内容と組織に関する実証的研究−産業教育審議会制度の構想から発足までの検討を中心に−
佐藤史人(名古屋大学大学院)

 本研究は、戦後の高校職業教育における教育行政制度に関する研究の一環として、産業教育振興法の内容の一つである産業教育に関する総合計画の立案、実施、組織の在り方等について、@法制定推進運動の記録や国会議事録等の資料を用いて成立までの事実経緯と論点を整理・分析し、A総合計画を実現するために制度化された産業教育審議会の機能、組織上の特徴等を検討することにより同法の役割や意義等を解明することを目的とする。

B−6
改正教育職員免許法と産業教育
田子建(名城大学)

 改正教員職員免許法の主な内容は、1.「大学での教員養成の改善」として、「教職に関する科目」の単位数の大幅増加、新設する「教科または教職に関する科目」での選択履修方式の導入、2.養護教諭の保険授業の担当、3.社会人など特別非常勤講師の分野拡大、特別免許制度の改正である。これは、工業、農業、商業などの課程認定を受けている大学の教職課程教育にどのように影響するのか。さらに職業教育、産業教育の今後に、いかなる課題を投げかけているのか。考察してみたい。

C−1
看護婦の職業能力構造に関する研究(第1報)−職業能力項目の抽出と職業能力プロフィールを中心に−
○森和夫(職業能力開発大学校)・村本淳子(三重県立看護大学)

 看護婦の職業能力がどのような構成・構造を持つかについて論じたものは少ない。われわれは看護婦75名に対して行った予備調査によって得られた1195の職業能力項目を類型化して32領域166項目を抽出した。この結果を用いた質問紙調査用紙によって1039名の看護婦を対象にその重要度を評価させた。実施時期は1998年1月である。その結果、看護婦の基本的な職業能力と周辺の職業能力とに明確に分かれることが明らかになった。

C−2
職業資格としての技能検定制度−業界団体に対するヒアリング調査を元に−
新井吾朗(職業能力開発大学校)

 労働省が所管する技能検定制度は、職業上のメリットが無い能力認定資格と分類されることが多い。しかし実態は、業界団体等の主導により、職業上のメリットのある資格として運用する努力がなされている。本報告は、その運用の実態を明らかにすることを目的とした。技能検定の実施に協力している団体等に対して聞き取り調査を行った結果、技能検定制度を職業資格として活用しようとする際のいくつかの特徴が明らかになった。

C−3
職業能力からみた職業資格の基礎的研究−保全技能者の職業能力と技能検定試験問題の比較から−
○砂田栄光(生涯職業能力開発促進センター)・森和夫(職業能力開発大学校)

 保全技能者の職業能力プロフィールと資格試験問題の整合性を検討し、職業資格の『職業能力の公証機能』は制限と限界について検討しようとした。技能検定試験の基準と試験問題を分析し、プロフィールとの一致度を検討した。試験問題は平成6年度から9年度までの学科試験問題とした。この結果、公証機能は制限や限界があり、その規定要因は職業能力をカバーできない点にあることなどを明らかにした。

C−4
自己啓発の類型化に関する一考察
三宅章介(東海学園大学)
 人材育成の方法としての「自己啓発」は、従業員自らが自発的な学習意欲によって自学的に能力を付与していくものであるから、学習効果は高く、また多様性にも富む。しかし、自己啓発とは何かと言ったとき、多くの企業においては定義は曖昧である。この研究においては、自己啓発を「学習契機」「職務関係」「学習場所」「学習方法」の4つの要素によって類型化を行い、それを基に自己啓発とは何かを考察してみることにする。

C−5
日本企業における人的資源開発の戦略的展開−その現状と今後の課題−
腰塚弘久(産能大学)

 日本企業の組織・人事システムの抜本的な組み替えに一定の方向を示唆するのが、「人的資源管理」という新たな概念である。人的資源管理は、人的資源計画、人的資源活用、人的資源開発という3つのサブ・システムから構成されるが、その戦略的な展開ポイントは「経営戦略との連動性」と「個の重視」にある。本研究の目的は、実態調査を通じて、日本企業における「人的資源開発」の戦略的展開の現状と今後の課題を明らかにすることにある。

C−6
日本企業の国際人材の育成に関する一考察
趙永東(立教大学大学院)

 グローバル化した日本企業が、外国人社員を採用し、昇進させ、その能力を十分に活用していくことは国際人的資源館理システムのことにほかならない。こうした環境の中で、日本企業においては国際人材の育成が急務であると言われている。しかし、「国際人材」とはどういう人材を指すのだろうか。企業によってどんな理念でどのように教育訓練し、育成していくのかを実態に触れながら考察してみます。

 

公開シンポジウム 「キャリア発達と職業教育並びに訓練
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シンポジウムのねらい

 戦後の復興を目指しひたすら成長への道を歩んだわが国経済は、平成期に至ってバブルが崩壊し低迷を続けている。このような状況は、人びとの日常生活のみならず青少年の職業行動に影響を与えぬわけにはいかぬ。産業教育をとりまく社会の状況は深刻である。
 個性と創造性と国際的視点を持った人間の育成を、キャリア発達の視点から生涯にわたって続けることが今日の状況を切り開く鍵である。本課題を中学、高校、企業内教育の立場から論ずる次第である。

職業生涯の長期的展望を与える教育訓練を   山田雄一(明治大学)

 教育訓練を、早期完結を期するものと逐次晩成を期するものとに分けるとすれば、キャリア発達を視野に入れた教育訓練は後者に属する。職業能力の逐次晩成を目的とする教育訓練は、初期就業能力の直接的向上を図るだけでなく、学習意欲の自発的持続化を達成するものでなくてはならない。そのためには、個別的な知識・技能の付与とともに、職業世界の未来展望と対人的交流能力をはぐくむに足りる状況と仕組みが用意されるべきである。

中学校生徒の職業選択能力の発達   西田泰和(芦屋大学)

 中学生の職業能力の評価のため「F式選職能力テスト」を継続実施しその推移を見るとともに、職業選択の変化を縦断的方法により調べ職業発達を検討した。この実践的研究は福山職業指導学と職業指導学国際会議(1〜7)の成果を踏まえて行われた。この紹介を併せ行い中学生の進路発達を促進する教育の在り方を論ずる。「F式選職能力テスト」は、福山重一博士が職業指導の哲学的研究を基盤とする実践方法として昭和24年に開発された。

高校職業教育の立場から   鈴木寿雄(神奈川大学)

@青年期の発達課題と職業教育
 ○自己概念の形成・変容・拡大  ○個性の伸長と職業の選択
 ○職業教育の意義
A我が国の職業教育の現状
 ○高校進学率の上昇と職業指導の変質  ○産業構造の変化と職業教育の衰退
 ○生涯学習社会における職業教育
B高校の再編成と職業教育
 ○総合学科の発足  ○専門高校としての再出発
C我が国の職業教育の課題
 ○専門性の回復と学校制度  ○高校卒業資格と職業資格

コーディネータ 倉内史郎

 

工場見学 SHARP 天理総合開発センター

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公共職業能力開発施設施設見学 関西職業能力開発促進センター

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